
演出の是非と、歌芝居
何人かの方が書かれているように、演出にメッセージ性が強すぎるように感じられるのは私も同感でした。パミーナを挟んだ母と父の愛情の相克、
善と悪の相克が、すべて戦争と平和に還元されてしまったようで、悪く言えば平板です。原作(特に台本)を読む限りはもう少し深遠なの
ではないでしょうか。これを良しとするか不可とするかはご覧になる方次第でしょう。
私が好きな場面は三人の侍女が絡む冒頭と、タミーノと弁者の会話のところなのですが、冒頭はそれなりに楽しめました。
従軍看護婦の衣装がなかなか良かったし、舞台では表現できない3人の表情の動きなども画面を楽しくしています。
ただ、弁者=ザラストロ、しかもトンテンカンと仕事しながらというのはねえ・・・ 弁者のレシタティーボとタミーノの焦ったような調子が
からむ素晴らしい音楽で、おそらくモーツアルトが書いたレシタティーボの中でも最高だと思うのですが、映画ではその音楽的な良さが失われていました。
でも、全体としては「こういう楽しみ方もあるな」という感じで星3つということにしました。
オペラが肌に合うかどうか
モーツァルトのオペラを映画化……ってことなんですけど、そのオペラを観たことはありません。前知識なしで観に行きました。
……くっだらねぇ。映画観てて初めて寝そうになった。オペラってのが肌に合わんのかなぁ。台詞がほとんど歌、って何だそりゃ。いやそれがオペラなんやけどけどけど。スクリーンじゃなくて舞台で観たらまた違うのかも知らんね。
ストーリーもちょいと難解。異世界に迷い込んだ主人公が、ザラストロにさらわれた夜の女王の娘を救い出すように頼まれて、危険から守ってくれるという魔笛とチャイムを貰って旅立つ……ってな話なんですけど、夜の女王の娘はあっさりと主人公に惚れちゃうし、途中で善玉と悪玉が入れ替わって、でも魔笛を与えたのは夜の女王で、主人公は何故かザラストロの元で試練を受けることになって、つうか夜の女王って何者? つうか魔笛吹いてないじゃん、チャイムの方が役に立ってるじゃん!
……あかん、わけわからん。善と悪が途中で入れ替わるとか、愛と平和をもたらした魔笛を与えたのは悪になったはずの夜の女王だとか、まぁ深く考えれば深い話になり得るんでしょうけどそこまで考える気になれないわ。
これはモーツァルトの望んだものではない
『魔笛』はもともと矛盾だらけの作品。いくら徳高いザラストロだからと言って、パミーナの誘拐は立派な犯罪。彼は得々と女性差別思想を説くし、彼の神殿にはなぜか奴隷がいて、奴隷頭のモノスタトスは黒人という人種ゆえに差別されている。むしろ悪役、夜の女王の配下、三人の侍女の方が嘘つきはいけません、などとまともな道徳を説き、悪の親玉から渡された魔法の笛と鈴は最後まで魔力を失わず、そのおかげでザラストロの課す試練に落第したパパゲーノも伴侶を得られる。
モーツァルトは台本づくりにも関わって、彼の所属するフリーメイソンの思想をザラストロに代弁させたと言われるけれど、彼がパパゲーノに肩入れしているのは明らか。被差別者モノスタトスも魅力的なアリアをもらっているし、一番すばらしい音楽を付けてもらったのは、間違いなく夜の女王だ。つまり、モーツァルトが望んだのは、いかにも18世紀的な支離滅裂な童話劇を様々な矛盾のままに、そのまま受け取ってもらうことだったと思う。
初演当時の社会情勢では、夜の女王はマリア・テレジアのような旧体制(アンシャン・レジーム)の代表者、ザラストロはフランス革命に通ずる啓蒙主義の体現者と見られたであろうが、モーツァルトは啓蒙主義が人類を幸福な未来に導くとは限らないことを見通していたとの評もある。確かにその通りであったことは、第二次世界大戦とホロコーストに至る歴史が証明している。彼は支配者が誰であろうと「食って寝て、女の子がいれば十分」という自分の欲望に素直なパパゲーノの生き方に一番、共感したのだ。
これに対し、映画は夜の女王やモノスタトスの立場に配慮はしつつも、あまりにもザラストロ寄りの立場に立ち過ぎている。ルネ・パーペが出演し、弁者役まで兼ねてしまうことから予想された結果ではあるけれど、フリーメイソン関連団体から製作資金が出ているのではと勘ぐりたくなるほど、視点の偏った映画だ。もちろん映画は原作に対する一つの受容の形に過ぎないから、これはこれでいいけど、元のオペラの方がはるかに含蓄の豊かな内容を持っていることは、ぜひ知ってほしい。
モーツァルトの望んだもの
モーツァルトの音に何よりもふさわしい
青い、さわやかな空を映して序曲が始まる
主題を奏でる第一ヴァイオリンとそれを追ってみごとに絡み合う第二ヴァイオリン
低音の弦が響くとそこには
鮮やかな緑の平野が広がり
間を縫って駆け上がる管の音に沿って
蝶が舞い、花が開く
ところが
その鮮やかな長調の調べを嗤うかのように
戦火が燃え、打楽器の音とともに大砲が炸裂する
そしてドラマが始まる…
CGを駆使してトリッキーな映像がふんだんに溢れ、
『魔笛』のファンタジーをとても美しく描いていく
もちろんそれぞれのアリアも素晴らしい
それでもしかし、戦争の描写についてはファンタジーに逃げ込むことなく、正面から挑んでいるところがさすが、と思わせる。
慰霊碑に並ぶのは、国籍も民族も問わないたくさんの名前だ
誰も彼もが哀しみ、失うものだらけの争いを
ザラストロは悼み、嘆く
そしてその希望をタミーノと『魔笛』に賭けるのだ
その終わりは確かにファンタジーであり、
現実がそうではないことを却って痛感させられる
歓びに満ち満ちたフィナーレがある
でも
モーツァルトもそれを望んでいたに違いない
自分の世では無理な平和を
時を超えたファンタジーがかなえてくれることを
見終わった後なぜか清々しい気分に
映像はともかく、音楽を楽しむと割り切って見れば十分な出来だと思いました。
舞台設定はオペラとは異なり第一次大戦下に置き換えられているのですが、序曲にあわせて空軍の編隊が飛んでいるのには、本物のオペラを見たことがなくても違和感を感じます。あと、英語ってオペラには全然合わないですねぇ。やっぱりドイツ語のほうが・・・。
ちなみに200年前の当時に支離滅裂などと揶揄されたようですが、全編を通して流れるテーマは非常にわかりやすい。
「争いはやめよう!愛し合おう!平和を皆で願おう!」
これ以上わかりやすいメッセージはないんでないかと思います。
この商品を買った人は
こんな商品も買っています
アマゾン通販はこちら