曲頭から上質そのものの音楽だ。大きな室内楽に包み込まれているような、一体感あふれる演奏である。どちらの曲も、ウィーン・フィルの柔らかく懐の深い響き、比類なく緻密でまろやかなブレンデルのピアノを聴く愉悦に満たされる。
ブレンデルのピアノはいつもさりげない。人を驚かせることを意識的に避けているのではと思えるほど、実直に音楽に取り組む。しかし、丁寧に聴くならば、この中庸が信じ難いほどの高い知性と、音楽への誠実さの結果だということに気がつくだろう。
また、ラトルはウィーン・フィルについてこう語っている。「…私たちの文化的背景はまったく違っているが、私が好きなのは、彼らが常に異なった世界について学ぶ意欲を持っている点だ。だからこそ、私たちはともに探究を行うことができるのだ」。モラヴィアに生まれ、ウィーンでデビューし、ロンドンに住むブレンデルと、リヴァプールに生まれ、バーミンガムで世界的な名声を獲得したラトル、オーストリア=ハンガリーの文化圏から発したウィーン・フィル。ここに聴くことのできる室内楽的一体感とは、これら異なる三者のきわめて高度な共同作業の結実なのだ。(林田直樹)
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